ロンドン野郎: うんちく・小ネタ
"美人"漫画家の中尊寺ゆつこ さん。 『オヤジギャル』という超有名コンセプトを発明し、マスコミへの露出も多かったし、写真や絵を見れば誰でも分るはずです。 彼女が2005年に癌で亡くなる直前まで校正を行った遺作はちょっと意外な作品でした。 『やっぱり英語をしゃべりたい!(英語負け組からの華麗なる脱出法)』。 本人も『まさか自分が・・・』と思いながら初めて書いた、そして最後になった、中尊寺流英語学習法の『英語本』です。
元ジャリ・モデル。 お嬢様。 美人。 セレブ付合い。 ニューヨーク。 っていう外見イメージで、いわゆる帰国子女かなんかで、英語も小さい頃から結構お金の掛かる教育をしっかり受けてきたんじゃないかっていう偏見で見られがちですが、実は全然違う。 この英語本を書くきっかけになったのが、NHKの『英語でしゃべらナイト』の出演だったのですが、その内容は中尊寺さん自身が『英語負け組』からどうやって独力で這い上がってきたかというお話でした。 ロンドン野郎は、カナダに来てからテレビの日本語放送で偶然これを見ていました。 ある意味衝撃的で、実際大変な反響を呼びました。 彼女のWebサイトなんかにも大変な数の書き込みや問合せがあったそうです。
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そこにどんなヒミツ があったかというと、実は何もヒミツはなかった んですね。 逆によく言われる『習うより慣れろ』を完全に否定し、『先ずなにより文法が大事』、『ただ外国に住んでいるだけでは英語はうまくならない』、『英語習得に近道は無い』 といった基本に立ち返るお話でいした。 実はこの当たり前の事が逆にとても新鮮だったのです。 本の中では、『子供の早期英語教育なんか必要ない』とまで言っています。 ロンドン野郎自身、読んでいて思わず冷や汗が出たのは『英語お上手ですね』 っていうのは褒め言葉じゃなくて、実はバカにされているのと同じことだったっていうこと。
恥を偲んで申し上げれば、ロンドン野郎もカナダで4年も暮らしていながら、英語力は全然完璧じゃありません。 今でもこちらの映画やTVのドラマなんかをいきなり見れば、下手をすると半分も分かっていないことがあります。 先日のブログで映画『I am Legend』 を見た話を書きましたが、出演しているワンコの"サム"を男の子だとばっかり思っていたら、実は"サマンサ"ちゃんだったという赤っ恥 をかいてしまいました(ブログはコッソリ訂正しています)。 Will Smithのセリフが聞き取れていなかったんですね。
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こちらに来てつくづく思うのですが、自分が何かを伝えたいと思って、相手もそれ聞きたいと思っているときは、どんなブロークン英語でも足りない部分は相手が一生懸命補ってくれる ので何とかなります。 シチュエーションでいえば、お買い物、レストランでの注文、恋人同士は言うまでもなく相手が好意を持ってくれている場合、短期間のホームステイみたいなお客様扱いの場合、とかです。 英語力が無くても多少の度胸と慣れで全然大丈夫です。
ところが、旅行中に大きなトラブルに見舞われたり、ましてや海外で本格的に学校に行ったり、生活したり、仕事になってくるといきなり壁にぶち当たります。 聞く耳を持たない相手を説得したり、苦情を言ったり、分からない事を質問したりと、まず最初にこういったシチュエーションが嫌でもやって来ます。 ここで、自分の言いたい事が100%言い切れなくて誤解されたり、グループの中でみんなが笑っているのに何を笑っているのか一人だけ全く理解できなくて、思わず愛想笑いでごまかしたり、理屈にならない理屈を早口でまくし立てられて言い返せず泣き寝入りしたり、というのはロンドン野郎も含めて殆どの人が経験しているはずです。 このレベルになると慣れだけではなく、かなり頑張らないとクリアできなくなってきます。
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そして、もっと高度になってくると、色々な分野の問題に対して自分自身の意見を述べる事、他の人たちの考えを聞いて理解する事 が求められます。 このレベルだと、単に英語力の問題だけではなく、本質的な物事に対する見識、知識、思想、みたいなところに行き着いてしまいますが、せめて自分達の母国の日本の文化の事 なんかも多少なりとも分かっていないと、とんでもなく恥ずかしい思いをすることもあります。 ここで、あまりにも語彙が無かったり、文法メチャメチャ英語では、まともな意見としても扱ってもらえなくなります。 ロンドン野郎もいまだに苦労する事が多々あります。
中尊寺さんはこういった壁を乗り越えて、最後には日本の外務省の委託を受けてアトランタで大勢の聴衆の前で英語で日本文化の講演会を行ったり、CNNの創始者テッド・ターナーやカーター元大統領と堂々と通訳無しで面談したりできるようなレベルになったのです。 これから間違いなくもっともっと活躍できる筈だったのにあまりにも早すぎる死は本当に残念です。 中尊寺さんが本の中で書いている学習法は、決して難しくない普通の日本人が年齢に関係なく誰でもお金も掛けず地道にできる方法です。
ロンドン野郎も遅ればせながら、中尊寺さんが本の中で紹介していた『話すための英文法』 市川敬三著というテキストを日本から取り寄せ、添付のCDを通勤途上に何度も何度も聞くといった方法で、英語の勉強のやり直しを始めています。 中尊寺さんはこの本の構文を本当に身に付くまで何度も何度も口に出して覚えて行ったそうです。
中尊寺さんの『やっぱり英語をしゃべりたい!』は英語本として、ある意味非凡だし、非常に優れた内容だと思います。 特に海外で暮らして英語の壁で悩んでいる方、高価な教材や英会話教室を渡り歩いて『英語難民』 になりかけている方に、是非ご一読をお勧めします。
素晴らしいメッセージを残してくれた中尊寺ゆつこさんのご冥福を心よりお祈りします。
最後に、日本外務省 アトランタ総領事 久枝譲治さんのあとがきから抜粋です。
本書に寄せて
正月に中尊寺ゆつこさんから、「もうすぐ英語本のゲラを送るので楽しみにしていてくださいね」という年賀状をもらった。 そして、アトランタで待っていた私のもとに届いたのは、彼女の死という悲しい知らせだった・・・・。
中略
中尊寺ゆつこさんは、帰国子女ではないし、学生時代に留学した経験もない普通の日本人であるが、英語でアメリカ人とコミュニケートするために必要と私が考える4つの資質、すなわち勇気、情熱、ユーモア、根気のすべてを備えた稀有なる文化人である。 彼女はそのことをアトランタでの講演や、カーター元大統領をはじめとする著名人との出会いで遺憾なく示した。
中略
英語の学習には、努力と根気が必要である。 この本には、そんな中尊寺さんの苦労話がたくさん出てくる。 でも、くじけないで欲しい。 ある程度の基礎は、誰でも義務教育で学んだはずであるし、また、英語は他のいかなるヨーロッパ言語より文法上の暗記項目の少ない言葉なのだから。
この本が一人でも多くの読者を勇気づけ、中尊寺流の英語学習を始めるきっかけとなれば嬉しいし、きっと中尊寺さんも喜んでくれるだろう。
私は、よもや自分の解説がこのように悲しい追悼文になるとは思わなかったが、いわば英語づかいのプロの一人として中尊寺流英語学習法を推奨することで、中尊寺ゆつこさんの生前の友情に報いたいと思う。 心から冥福を祈る。
2005年2月 久枝 譲治
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